2015.08.17

無罪判決を得て

   過日、僕が裁判員裁判の弁護人を務めさせていただいていた事件で、無罪の判決をいただきました。日本の刑事裁判の無罪率は0.1%と言われていますので、かなり珍しい体験をさせていただいたことになると思います。 
   この件の無罪の理由は、犯行が病気の圧倒的な影響下で行われたもので、責任能力がないというところにありました。実際、弁護人としても責任無能力との主張をしていたのですが、裁判官・裁判員にどう伝えるべきなのか、なかなか苦慮したところでもあるので、少しご説明をさせていただきます。 
   まず、「犯人であるのになぜ無罪になるのか」という疑問の声が寄せられることもありますが、これは「自分の意思でおかした犯罪でないからその犯人を非難できない(だから刑罰を科せない)」という説明がなされることが多いようです。精神疾患によって自己の行動をコントロールできない人は、非難の前提を欠く、ということですね。 
   また、「責任能力がない者を野放しにしてよいのか」という声を聞くこともありますが、責任無能力の判決を受けても殺人などの重大犯罪をおかした人に関しては、医療観察法という別の法律の手続が用意されていて実際には入院あるいは通院といった処遇に処せられることとなりますから、いわゆる無罪放免となるわけではありません。 
   ところで、上記裁判は約半月という長期間の審理がなされた上、専門用語もあり、裁判員の方々はさぞや難しい判断を迫られたのではないかと思います。弁護人の主張が容れられたからというのではなく、大変な裁判におつきあいいただいたことに改めて敬意を表したいと思います。 
   最後になりますが、被害者の方のご冥福をこの場を借りて心よりお祈り申し上げます。

(文責:土屋)