2018.12.06

無罪判決と身柄拘束

成田空港に到着した外国人が持つスーツケースの中に覚せい剤が隠されていたという事案に弁護人として関わり、先日、無罪判決をいただきました。
被告人の言い分は「スーツケースの中に覚せい剤が仕込まれているとは知らなかった。騙された。」というもので、罪を犯す意思(故意)がないとして、我々弁護人も無罪を主張していました。もちろん、単に被告人が「知らなかった」と述べればそれが通用するほど刑事裁判は甘くありませんが、今回の裁判官・裁判員は、来日前に被告人が関係者らとやりとりしたメールやチャットの内容、スーツケースの形状・重さ、税関検査時の被告人の言動といったところから、丁寧に被告人の内心を推認し、無罪判決を導いてくれました。
被告人も喜んでおり、弁護人としてもホッとする瞬間でした。

ところで、この事案では、鑑定を実施したことや外国からの資料の取り寄せに時間がかかったため、逮捕から判決まで1年9か月を要しました。この間、被告人は日本で身柄拘束をされたうえ、接見禁止処分が付されてしまったことにより弁護人以外とは面会も手紙のやりとりもできませんでした。弁護人目線で振り返ると、この期間は無罪を得るために必要な期間であったと思ってしまう部分もあるのですが、被告人の精神的な不安や孤独感はやはり想像以上に大きかったものと思います(なお,無罪判決が確定した場合、被告人は日本国に対し,身柄拘束期間に応じた補償金を請求できます)。
近時、著名な外国人経営者が日本で逮捕されたことで、日本の刑事司法制度に対する疑問の声が諸外国からあがりました。そこでは、弁護人の立ち合いなしでの取調べや、起訴前の長期の身柄拘束、家族との面会ができないことなどが指摘されていましたが、これらは著名人でなくとも今も身近で起きている「人質司法」の実情ですので、こうしたことをぜひ多くの方に知っていただき、また、必要な法改正、運用改善などが今後なされることを願わずにはいられません。

(文責:土屋)